子どもたちがScratchを好む理由 – 閉じられた環境の魅力

今回は、子どもたちがなぜScratchのようなプログラミング環境を好むのかについて考えてみたいと思います。

閉じられた環境の安心感

子どもたちは現実から少し切り離された環境を好む傾向があるように感じています。Scratchはその一例かもしれませんが、できることがすべて可視化されているのが特徴です。メニューにはコマンドが全部表示され、使えるスプライト(キャラクター)やコスチューム(見た目)も一目でわかるようになっています。外部から要素を持ち込む必要性が少なく、「この範囲内で自由に創作していいよ」という環境が整っているように思います。

これを「閉じられた環境」と呼んでいますが、この特性が子どもたちにとって重要なポイントになっているのではないかと考えています。

対照的に、Pythonのような言語では「何ができるか」をすぐに把握するのは難しい場合があります。ドキュメントを読んだりライブラリをインストールしたりする必要がありますが、その選択肢は膨大で、初心者には「どこまでできるのか」が見えにくいことがあるでしょう。

単純にツールとして考えれば、Pythonの方が可能性は広がるかもしれませんし、何かを作る際には優れている面もあるでしょう。しかし、子どもの学習という観点では別の要素を考慮する必要があるのではないでしょうか。

子どもの特性と権利の範囲

子どもは大人と違って、「やっていいこと」「やってはいけないこと」を自分で決める権限が限られていることが多いように思います。小学生が「トイレに行っていいですか?」と先生に尋ねる光景は珍しくありませんよね。子どもたちは自分の行動範囲や権利を意識しながら生活していることが多いのではないでしょうか。

このような子どもの特性を考えると、Pythonのような「何でもできる」環境は、場合によっては「どこまでやっていいのかわからない」という不安を生み出す可能性もあるかもしれません。「このライブラリをインストールしていいですか?」と確認が必要になることもあるでしょう。例えば、OpenAIのAPIを使うライブラリなどを子どもが勝手にインストールして課金されてしまったら心配ですよね。

Scratchの明確な境界線

Scratchの魅力のひとつは、範囲がはっきり決まっていることかもしれません。「できること」が全部見えているということは、「やっていいこと」が全部見えているということにもつながるでしょう。また、Scratchで作ったものを公開することはできても、それで収益を得たり、外部に影響を与えたりすることは比較的少ないと思います。

子どもにとって、自分の権利が明確で、できることがはっきりしている環境は安心できるものかもしれません。ビスケットなど他の子ども向けプログラミング環境も同様で、「できることが全て見えている」という点が魅力の一つなのかもしれないと感じています。

ゲームとの共通点

この考え方はゲームにも当てはまる可能性があります。例えば「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のようなオープンワールドゲームでも、プレイヤーはNintendo Switchという閉じられた環境内で遊んでいます。マインクラフトも同様で、ゲーム内では自由に創造できますが、その活動は基本的にゲーム内で完結することが多いでしょう。

子どもにとって、日常生活では「トイレに行っていいか」すら確認が必要なことがあります。そんな彼らにとって、閉じられた環境の中で自由に創造できる場所があることは、嬉しいことなのかもしれません。

プログラミング教育の課題

私は長年、マインクラフトをプログラミング教育の教材として活用しようと試みてきました。例えば、PythonやJavaScriptのコードを書いてマインクラフトの世界を拡張するような取り組みです。しかし、個人的な経験では、このアプローチは子どもたちにあまり受け入れられないケースが多いように感じています。

表面的には成功しているように見える事例もあるかもしれませんが、多くの場合、子どもたちはマインクラフトをプレイしたいという気持ちが強く、プログラミングはその手段になっていることが多いように思います。マインクラフトとプログラミングが有機的に結びついて、自然にプログラミングの世界に移行するケースはあまり見られない印象があります。

その原因のひとつとして、マインクラフトにPythonなどの外部ツールを導入すると、境界線が曖昧になってしまうことがあるのではないかと考えています。マインクラフト内のコマンドブロックやレッドストーン回路は、ゲーム内に存在するものなので子どもたちにとって分かりやすく、「自分がコントロールできる世界」として認識されやすいかもしれません。しかし、Pythonが入ってくると、多くの場合ゲーム外で作業することになり、「どこまでやっていいのか」という境界が不明確になる可能性があります。

まとめ

一般的には「Scratchは限定的だからよくない」「Pythonは制限がないから良い」という議論もあるようですが、子どもの学習という観点では別の見方もできるかもしれません。目に見える形で限定された環境があることで、子どもたちは安心してその中でクリエイティビティを発揮できる可能性もあるのではないでしょうか。

閉じられた環境と子どもたちのプログラミング学習の関係は、興味深いテーマだと思います。子どもたちの特性を理解し、彼らが安心して創造性を発揮できる環境を提供することが、プログラミング教育において重要な視点になるかもしれません。

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