プログラミング教育の危機とは何なのか

プログラミング教育の危機とは
プログラミング教育の危機の始まりは、ChatGPT などの生成AIが登場した2022年11月末ごろだと私は考えています。この「危機」とは、生成AIがプログラミングを自動でこなせるようになったことで、「自分たちはもうプログラミングを学ばなくても AI に書かせればいいのではないか」という発想が生まれ、教育としてのプログラミングが不要になるのではないか、というものです。この危機は生成AIの登場してから現在まで続いており、今後さらに強まっていく危機と感じています。
生成AIが出始めた2022年頃のプログラミングの立ち位置は、生成AIという様々なことができるツールのあくまで「一機能」に過ぎませんでした。しかし現在、生成AIの恩恵を最も大きく受けている分野は、明らかに「コーディング支援」へと変化しています。Anthropic社が Claude Code のような高性能ツールを出したことで、「プログラミング教育なんて不要になるのでは」と考える人が出るのは自然な流れだと思います。
しかし、私はプログラミング教育が不要になるとは考えていません。なぜなら、AI によってプログラミングが爆発的に普及するからです。AI がコードを書けるようになれば、人間が細かくコーディングをする必要がなくなり、結果としてプログラミングやソフトウェアが社会でメジャーになります。そうなると、それらを正しく扱うための基礎知識はより広く必要になります。そのため、プログラミング教育の重要性は「劇的に増えるわけでも減るわけでもないが、確実に必要であり続ける」という状況になるはずです。
危機の本質とその問題点
では、危機の本質はどこにあるのでしょうか。
私は、前述したようなコンピュータサイエンスそのものではなく、「理想的だった教育環境が失われつつあること」こそが危機だと考えています。
たとえば算数の計算練習を思い浮かべてみてください。足し算や掛け算などの計算練習を子供の頃に何度も練習させられた経験があると思いますが、正直あまり面白くなかったはずです。なぜなら、「電卓を使えば自分で計算しなくても答えが出る」と知っている状況で、その練習を続けるのは、どこか無意味に感じられるからです。計算能力は必要ですが、その習得過程は決して面白いものではありません。
これをプログラミングに置き換えてみてください。実は、プログラミングも同じ構造を持っています。
ここ10 年ほどは Scratch や Viscu it など優れた教材が登場し、「学ぶこと自体が楽しい」という教育の観点から見て極めて理想的な状態でした。子どもが何かを作りたいと思った時に、プログラミングでそれを形にする体験は純粋に面白く、その過程で自然とスキルも身についていくという、理想的な学習環境が成立していました。
しかし生成AIの登場によって、「作りたいものがあるなら自分でコードを書かなくても AI に作らせればよい」という状況が生まれてしまいました。これはまさに、電卓があるのに手計算の練習だけをさせられる構図と同じです。「AI に任せればいいのに、なぜ自分で書く必要があるのか」という無意味感が生じ、プログラミング学習の楽しさが損なわれてしまうのです。つまり、「楽しいから自然に学べるプログラミング教育」という特性が薄れ、他教科と同じように「努力して習得するもの」へと変質してしまった。これこそが、私が捉えるプログラミング教育の危機です。
だからこそ今、生成AIにすべてを任せてしまうのではなく、プログラミングそのものに価値を見出し、かつての理想的な学習環境をどう取り戻すかを考える必要があると私は感じています。
まとめ Q&A
Q1.プログラミング教育の危機の始まりはいつ、何がきっかけですか?
2022年11月末にChatGPT などの生成AIが登場したことがきっかけです。
Q2.生成AIの登場によってプログラミング教育の重要性に変化はありますか?
「劇的に増えるわけでも減るわけでもないが、確実に必要であり続ける」はずです。
Q3.生成AIの登場によって、必要なプログラミング知識は減りますか?
プログラミングを正しく扱うための基礎知識がより広く必要になると考えられます。
Q4.プログラミング教育の本質的な危機とは何ですか?
理想的だった教育環境が失われつつあることです。
Q5.一昔前のプログラミング教育とはどのようなものでしたか?
プログラミング教育は楽しいから自然に学べる、理想的な教育環境でした。
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